WEB BLEU特別座談会 プジョー躍進の理由と2022年の攻め方。


2021年も日本市場で好調な販売台数を記録するプジョー。フランス本国でも好調なセールスを維持しており、その快進撃はまだまだ続きそうです。そこで自動車業界に明るい3名の識者に、今年のプジョーの振り返りと来年への期待について、オンライン座談会で語っていただきました。

パネラー:
松本葉(フランス在住エッセイスト)、
加藤哲也(株式会社カーグラフィック代表)、
竹下元太郎(カーグラフィック編集長)
進行:
WEB BLEU編集部(以下「BLEU」)
日仏でプジョーが好調な理由
BLEU 2021年を振り返るにあたって、まずは昨年末に発表された「2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤー」にさかのぼりたいと思います。プジョーの208/e-208が、最も優れた輸入車に贈られるインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。どのあたりが評価されたのでしょうか。
竹下 まずはクオリティと実用性の高さでしょう。208はサイズやエンジン排気量から、Bセグメントに分類されますが、ひとつ上のCセグメントにも手が届きそうなレベルです。
加藤 もうひとつは、デザインですよね。コロナ禍にあって、人々は日常生活によろこびを見出したい気持ちが強くなっていると思います。そういう時代にあって、あの個性的な佇まいが評価を集めたのではないでしょうか。
竹下 3D i-Cockpitのデザインなど208に乗ると未来が近づいている感じがします。こんなクルマがあると、現在のような日常生活にも潤いを感じるかもしれませんね。
BLEU テクノロジーについてはいかがでしょうか。
竹下 208はADAS(先進運転支援システム)も充実しています。危険だと判断した時の衝突被害軽減ブレーキや、先行車両に追従するアクティブクルーズコントロールなど、世界のトップクラスと同じレベルにありますね。中でも優れているのは、車線上の任意の位置をキープするようにハンドル操作をアシストする、レーンポジショニングアシストという機能です。これを作動させた時にクルマがフラつくと一気に信頼感が薄れますが、プジョーはこの技術が進んでいます。
BLEU そうした完成度を受けてか2021年上半期の日本におけるプジョーの販売台数は対前年比プラス71%と大幅に伸びています。これを牽引したのが208でした。
松本 フランスでも肌感覚で208が増えているのがわかります。気になって数字を調べてみたら、2021年1月から10月の累計販売台数でフランス国内では208/e-208が1位でした。ちなみに4位に2008/e-2008、7位に3008が入っていて、トップ10の中に3台もプジョーが入っています。
BLEU フランスでのプジョーは、メインストリームのブランドなのですね。
松本 そうですね。本当にいろいろな方が乗っています。それだけ幅広い方にプジョー車のデザインやクオリティが認められていると言えますね。
特筆すべきEV比率の高さ

加藤 日本の販売台数を見ると、208全体の販売に占めるEV(e-208)の割合は10%近くあります。日本車のEVの割合はだいたい1%前後ですから、208はEVの比率が圧倒的に高いということになります。
BLEU かなり顕著ですね。どんな理由が考えられますか。
竹下 クルマの使い方やライフスタイルに合わせてパワートレインを選べるという考え方が、日本にもフィットしたのだと思います。EVは都市型のモビリティというイメージがありますが、実は郊外でも販売が伸びており全国的に需要が高いことがわかります。
加藤 マンションの多い都市部よりも、郊外の戸建てのほうが充電設備を設置しやすいという理由もあるでしょうね。松本さんに聞きたいのですが、フランスでの充電設備の状況はいかがですか?
松本 ものすごい勢いで増えていますね。スーパーやショッピングセンターなどの駐車場にどんどん充電器が設置されています。208全体に占めるe-208の割合も日本よりさらに高い約20%ですから、急激なEVシフトが進んでいることを実感します。
BLEU プジョーは「パワー・オブ・チョイス」というコンセプトで、EVを日常的に使えるクルマと位置付けています。それがお客様のニーズ、時代のニーズと合致していて、208とe-208の販売比率に表れているのかもしれませんね。
新しいエンブレムが意味するもの

BLEU 今年、プジョーは新しいブランドアイデンティティを発表しました。このタイミングでのリニューアルについて、どんな狙いを感じますか。
竹下 PSA(グループPSA)とFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)が統合されて、ステランティスという世界第4位の自動車メーカーが生まれました。さらにクルマは100年に一度の大転換期にあると言われています。そんな中での刷新ですから「新たなスタートを切る」という意味を込めたのではないでしょうか。
加藤 統合により巨大な自動車メーカーになった。だからこそプジョー独自の魅力をアピールする必要もある。プジョーの個性、独自性をさらに強く訴えるためという側面もあると思います。
松本 新しいライオンエンブレムは、いままでの4本の脚が描かれていたエンブレムよりもシリアスな印象を受けます。生活とか人生とか社会とか、大きな話をすると人類とか、いろいろと考えなければいけない、今という時代にマッチしていると思います。
BLEU ヨーロッパの自動車業界の方は、ステランティスの誕生をどのようにとらえていますか。
松本 意外とすんなり受け入れているようです。以前、ヨーロッパの通貨がユーロに統一された時も「最初はそんなこと絶対に無理だ」という反発がありましたが、1週間も経つとみんな普通にユーロを使っていた。それと同じような感じです。きっとステランティスという存在を導入した手法が上手だったからだと思うのですが、この自動車メーカーが前からあったような錯覚を抱きそうなほどです。
BLEU リンダ・ジャクソンという女性CEOの活躍も話題になっていますが、フランスでの評価はいかがでしょうか。
松本 彼女はイギリスのコヴェントリーという自動車の街で生まれ育って、自動車業界ひと筋で生きてきた方です。だから技術、ファイナンス、マーケティングなど、あらゆる分野に長けていて、たとえばEVを導入するにしてもゴリ押しするのではなく、いくつかの選択肢の中からユーザーに選ばせる手法を採りました。
BLEU 女性らしい柔軟さを感じますね。
松本 ライフスタイルが多様であることを彼女はわかっているし、消費者も自分に合ったクルマ選びができる。そういうやわらかいアプローチが今の時代に合っていると思うし、多くの方がうまく行くのではないかという期待を持っています。

2022年のトピックは、NEW 308導入とWEC参戦

BLEU 最後に2022年のプジョーについてお聞かせください。来年、日本にもNEW 308/308 SWが導入される予定ですが、竹下さんは先行して欧州仕様車に試乗されていますね。
竹下 僕が試乗したのはNEW 308 HYBRID GTというグレードのプラグインハイブリッド車だったのですが、印象的だったのはクルマとしてのまとまりがすごくいいことです。電気はここまでで、ここから先はエンジン、というような寄せ集めた感じが一切なくて、一体感がある。サーキットでの試乗でしたが、ハンドリングがいいから愉しく走れるし、想像するに一般道での乗り心地もいいはずです。デザインも含めた総合力が高いので、強力なライバルが多いこのクラスで、強い存在感を示すだろうと予想します。
BLEU フランスではNEW 308がもう走っていますよね。
松本 10月頃からデリバリーが始まって、たびたび街で見かけるようになりました。さきほど新しいエンブレムの話が出ましたが、運転しながらルームミラーで後ろから走ってくるのを見ると、とても目を引くデザインだなと感じます。
BLEU NEW 308/308 SWの日本導入は並み居る強豪への挑戦となりますね。加えて2022年のプジョーはモータースポーツの舞台にも戻ってきて、ル・マン・ハイパーカー(LMH)のカテゴリーでFIA世界耐久選手権(WEC)に復帰予定です。先行して発表されたレースマシン、PEUGEOT 9X8はそのデザインが話題になっていますね。
加藤 9X8の写真を見て驚いたのは、リアウィングが存在しないことです。新しいエアロダイナミクスの技術でそうなったということですが、いままでのレーシングマシンの常識からは外れています。ただ、プジョーにはいままでも冒険的なテクノロジーでレースに勝ってきたという歴史があります。ル・マン24時間レースを含めたWECには世界の強豪が集まりますから、プジョーがどんな戦いをするのか今から楽しみです。
デザイン、クオリティ、テクノロジー、そしてエンブレム。この数年のプジョーは、すべてにおいて大きな進化を遂げています。
2021年の成長を牽引した208/e-208に続き、激戦区のCセグメントにNEW 308/308 SWを投入する2022年はWECへの参戦とともに、ターニングポイントといえる年になる。そんなことが確認できた今回の座談会でした。
