ベテランモータリングジャーナリストが、プジョーの新作ハイブリッドを試乗 青いライオンのふたつの顔

「Power of Choice」というコンセプトのもと、最新のプジョーモデルは同じボディで内燃機関エンジンと電動パワートレインの両方が選べるようになっています。その目的は、それぞれのライフスタイルに合ったクルマの使い方を提案することと、エネルギー環境問題に対応するためです。
プジョー508/508SWにも、2ℓのディーゼルエンジンと1.6ℓのガソリンエンジンをラインナップしてきました。そしてこの度、1.6ℓガソリンエンジンに電動モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドが加わります。ジャーナリストの加藤哲也さんが試乗し、この新しいメカニズムがどのように働くのかを確認しました。

加藤さんが乗り込む前に、このクルマのメカニズムを簡単にご紹介します。プラグインハイブリッドとは、外部電源と接続(プラグイン)することで、充電することができるハイブリッド車です。電気がバッテリーに充分に蓄えられている状態ではEV(電気自動車)として走り、電気が足りなくなるとエンジンとモーターが連携するハイブリッド車に変身します。
システムを起動した加藤さんは、「スタート時にはデフォルトでエレクトリックモードが選ばれるんですね」と指摘しました。プジョー508 HYBRIDには「エレクトリック」「ハイブリッド」「コンフォート」「スポーツ」の4つのドライブモードがあります。バッテリーに十分な残量があれば起動時にはエレクトリックモードが選ばれます。EVとして走行できる距離は、最大で56kmです(WLTCモード)。
「モーター単体で320Nmの最大トルクがあるから、加速は充分ですね。プジョーには4輪駆動の3008 HYBRID4もありますが、508 HYBRIDはフロントのみにモーターを搭載するFFになっています」

インストルメントパネルにはハイブリッドシステムの作動状況が表示されます。写真はエレクトリックモードの状態。バッテリーからモーターへ電力が供給され、モーターで前輪を駆動しています。
小径のハンドルの上方からインストルメントパネルを見る形になる、プジョー独自のi-Cockpit®と呼ばれるインテリア。「僕はこの内装が好きですね。ハンドル操作もしやすいし、なによりさまざまなインフォメーションが直感で理解できるのがいい」(加藤さん)

加藤さんがシステムを解説する車内はとても静か。振動もなく、実に快適です。低速域からトルクがあり、レスポンスにも優れるモーターの特性から、市街地での運転も実に快適だとか。
「特別な操作は必要ないので、どなたでもすぐ慣れると思います」
高速道路に入ると、加藤さんはハイブリッドモードを選択しました。そして、ETCゲートを通過したところで、軽くアクセルを踏み込みました。
「モーターとエンジンを合わせたシステム合計最高出力は225psもあるので、動力性能は充分以上。インストルメントパネルの表示を見ていると、エンジンとモーターが同時に稼働したり、片方だけになったりしています。でもシームレスに切り替わるので、表示を見ていない限りは気づきませんね」

加藤さんが「おっ、この乗り心地は好きですね」と笑顔を見せたのは、コンフォートモードを選んだ場面。パワートレインはハイブリッドモードと同じですが、アクティブサスペンションが乗り心地重視の快適なセッティングに変化します。
「もともとプジョー508というモデルは、サスペンションが上手に伸び縮みして路面からのショックをやわらげるのが特長でした。このモードだと、その美点がさらに強調されますね。しかもハイブリッドで車内が静かだから、しっとりとしたラグジュアリーサルーンという印象を受けます」
箱根のワインディングロードに入ると、加藤さんはスポーツモードをセレクトします。
「このモードだとエンジンを高回転域まで引っ張り、レスポンスも鋭くなりますね。ハンドルの手応えも変化して、クイックに曲がるようになります。エンジンとモーターを合わせたパワーも充分以上だから、スポーツサルーンとして楽しめます」
ただし、スポーツサルーンとはいえ、プジョーならではの個性も感じたようです。

200Vの普通充電器のプラグを差し込むだけで簡単に充電できます。コンセントタイプ(車両付属のケーブルを使用)や壁掛けウォールタイプに対応。満充電に要する時間はコンセントタイプで約5時間、6kWウォールタイプなら約2.5時間なので、夜間にプラグを差し込めば翌朝にはEVとしてスタートすることが可能です。

「サスペンションがよく動いて、ロードホールディングと乗り心地を確保しながらスポーティに走るのがプジョーらしさです。そこが、足をガチガチに固めたスポーツサルーンとは違います」
加藤さんのインプレッションから、プジョー508 HYBRIDがある生活をイメージすることができました。平日は、EVとして買い物や送り迎えに使います。ヨーロッパでも一日の平均走行距離は40km程度だといいますから、56kmの航続距離は必要十分。夜間に充電すれば、平日はほとんどエンジンは使われないかもしれません。そして休日は、快適なグランドツアラーや軽快なスポーツサルーンとして活躍します。
プラグインハイブリッドは、環境問題に対応すると同時に、ラグジュアリーからスポーティまで、クルマの魅力の幅を広げる役割も果たすのです。

photo=Takayuki Kikuchi