LION TASTING IMPRESSION 乗り味の表現力を愉しむ──
プジョーの“しなやかさ”を解明 vol.3

プジョー車の乗り味を表現する言葉に“しなやかさ”があります。路面からの衝撃をいなしながら、しっかりと路面を掴んで狙い通りのコーナリングができ、軽快なハンドリングと優れた直進安定性を両立している。そんな数値化できない感覚を理解するために、社外のテストドライバーがプジョー車5台を乗り比べながら“しなやかさ”を解明します。
最終回となる今回は、フラッグシップサルーンである508 HYBRIDに試乗。プジョーというメーカーがすべてのラインナップに通底させる“走り”に対するこだわりを垣間見ながら、“しなやかさ”がつなぐ運転の楽しさの真実に迫っていきます。

ひと筆書きのように所作がつながる ── 508 HYBRID

DRIVER’S COMMENT
「主観ですが、佇まいがとてもいいですね。低く伸びやかなフォルムには、クラスやカテゴリーを超えた普遍的な美しさを感じてしまいます。止まっていても走っていても、どこか凛とした緊張感をおぼえるのです。

試乗車もこの508で5台目ですが、走り出してじきに深く頷きました。『これも同じだ……』と思ったのです。プジョー車の根っこにある“しなやかさ”が508にも通底していることに、あらためて感心しました。うねりのある一般道の交差点を走り抜けた時のこと。わりとキツい路面の凹凸をサスペンションがしっかり受け止め、いなしつつ、車体はフラットさを失わないままスーッと通過する。ガッチリとした車体は乗員をハーシュネス(継ぎ目や段差を乗り越えるときに発生する衝撃)からも守ってくれました。

一般道から首都高速への合流は、508のドライビングでもっとも気持ちいい瞬間のひとつかもしれません。トルクフルなハイブリッドユニットは、速やかに車体を本線の流れへと引っ張ってくれます。次から次へと大小のコーナーが近づいてくるのも、ここ首都高速ならではですね。

ハンドリングは中立付近でゆったりと穏やかなのですが、さらに切り足すと素直かつスピーディに鼻先が向きを変えていき、思い描いたイメージ通りにコーナリングできます。そんなコーナリングの最中でも、乗り味の穏やかさ≒しなやかさは終始変わりません。ドライバーの感覚にぴったりと寄り添いながらあくまでナチュラルに、ハンドルを切ったぶんだけ手応えが確かなものへと変化していきます。

素晴らしい長所として挙げたいのは、コーナーの旋回中にクルマの“軸”が車体のセンターからブレないこと。とくにS字コーナーの切り返しでは、まるでひと筆書きの所作のようになめらかに508は走行します。アクセルオン/オフによる車体の挙動がきわめて穏やかなので、コントロールがとてもしやすい。おかげで先行車との車間距離をキープする際の、微妙な加減速も平易です。

しかもプジョーのどのモデルよりもロングな全長ながら、身のこなしとフットワークは208と遜色ないほどにスポーティなことには驚かされるばかりです。フラッグシップらしい室内の高級感や快適性、静粛性については言わずもがな、プジョーらしい“しなやかさ”も全車共通のDNAとして508に備わっていました」

“しなやかさ”の中心には思想があった ── まとめ

プジョー車5台すべてに備わっていた走りの“しなやかさ”。プロのテストドライバーの言葉の中に感じていただけたでしょうか。

「プジョーらしさとは何か?」

そのことを考えたときに、真っ先に思い浮ぶ言葉に“しなやかさ”があることを最初に述べました。プジョーでこそ強く感じることができる、しなやかな足まわり。そんな足まわりには世界どのメーカーの流儀を借りるのでもなく、プジョーだけが持つ「味」があるということです。
今回はプジョーの数ある個性の中でもとくに足まわりと車体のパフォーマンスに注目し、テストドライバーがじっくりと分析しました。

・ソフトなだけのサスペンションではないこと
・路面からのショックを無理に受け止めず、自然に消化すること
・その収め方が心地よく不快ではないこと
・快/不快の定義(経験則)が明確にあること
・足まわりを支える車体設計が優れていること

プジョー車5台の足まわりはすべて、路面の凹凸へのあたりが優しく柔らかなセッティングが施されていました。市街地でも首都高速でもドライバーは狙い通りのコーナリングを実現できるし、さらにハンドリングそのものもとても軽快です。その一方で直進安定性に優れており、スピードレンジが高まると前述の“しなやかさ”に滑空するようなフラット感が加えられることになります。それらの特性が結果的に、日本の道路事情にもマッチしていることも発見できました。

一般的に4つのタイヤの荷重を高めて車体をコントロールさせる方が、どんな路面状況でもグリップさせやすいと言われています。しかしプジョーはタイヤのグリップ力に過度に頼りません。シンプルな設計のサスペンションですが、そのパフォーマンスを最大限に活かす方向でのセッティングをもっとも尊重していると感じます。

ショックアブソーバーの減衰調整では「圧側(サスが沈むのを抑える)」だけではなく、「伸側(サスが伸びるのを抑える)」の前後輪バランスを巧みに調整することによって、路面追従性を格段に向上させています。そのことで4つの車輪をしなやかに動かしながら路面に吸いつくように、正確かつ俊敏にさまざまな起伏や凹凸をクリアしていくのです。しかもステアリングやシートから伝わる接地感は、じつに濃厚──これこそがプジョー車に通じる豊かな“しなやかさ”の理由だと確信しました。プジョーの開発スタッフは、人間の感覚において「心地いい」と感じる振動周波数を熟知しており、その思想がすべてのプジョー車にていねいに織り込まれているのです。